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福岡高等裁判所宮崎支部 平成元年(ネ)233号 判決

控訴人

学校法人延岡学園

右代表者理事

佐々木秀雄

右訴訟代理人弁護士

佐々木龍彦

俵正市

被控訴人

堀田孝一

右訴訟代理人弁護士

鍬田萬喜雄

中島多津雄

松田幸子

後藤好成

成見正毅

西田隆二

主文

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人の本件仮処分申請を却下する。

三  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

第一  申立て

一  控訴人

主文同旨

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は、控訴人の負担とする。

第二  当事者双方の主張は、次のとおり付加、訂正及び削除するほかは原判決事実摘示と同じであるからこれを引用する。

1  原判決二枚目表五行目「理科教諭」を「理科の専任教諭」と改め、同一〇、一一行目「意思表示をした」の次に「(以下「本件懲戒解雇」又は単に「本件解雇」という。)」を加え、同末行「勤務規定」を「控訴人の就業規則である昭和六二年四月七日施行の延岡学園高等学校勤務規定(以下「勤務規定」という。)」と改める。

2  同二枚目裏七行目「至らしめた」の次に「(以下「本件リボン闘争」という。)」を加え、同一〇行目「文書」を「別紙2の「生徒のみなさん 能丸先生、浜口先生両先生のことで真実をお知らせします」と題する文書(以下「本件生徒配付文書」という。)」と改め、同末行「組合作成にかかる」の次に「別紙1の行政指導申入れ項目記載の内容の」をそれぞれ加える。

3  同三枚目表一行目一個目の「文書」の次に「(以下「本件行政指導申入れ書」という。)」を加え、同行「提出した。」を「提出して学園に対し行政指導をするよう求めた(以下「本件行政指導申入れ」という。)。しかし、」と改め、同八行目「和解協定書」を「控訴人と組合間に成立した和解協定(以下「昭和五五年和解協定」といい、同協定により作成された文書を「昭和五五年和解協定書」という。)」と改め、同一一行目「延岡学園理事会あてと称する文書」を「別紙3の「たびかさなる裁判への妨害活動と人の一生を左右する人権侵害をただちに停止されるよう怒りとともに訴えます延岡学園理事会殿」及び別紙4の「人の一生をふみにじらないで下さい 裁判を妨害しないで下さい 再度訴えます 延岡学園理事会殿」と題する各文書(以下両文書を併せて「本件抗議文書」という。)」と改め、以下「本件両文書」とあるをすべて「本件抗議文書」と改める。

4  同三枚目裏一〇行目「始業式当日の」の次に「大掃除の際等始業式が始まるまでの」を、同四枚目表五行目「憲法二一条」の次に「及び労働者の団結権を保障した同二八条、労働組合法」を加える。

5  同四枚目裏九行目「組合の正当行為であって」を「職務上知り得た秘密を漏らし、又は学校の不利益となるおそれのある事実を他に告げることにあたるものではなく」と、同一〇行目「規定の懲戒事由」を「規定三二条四号所定の事由」とそれぞれ改める。

6  同五枚目表四行目「衝撃を受けたものの如く、」を「虚偽があるとして」と改める。

7  同五枚目裏一〇行目「不当労働行為」を「不当労働行為その一」と改める。

8  同六枚目表四行目「目的は、」の次に「右常勤講師制度が労働者の地位に係わるもので重要な労働条件に関する事柄であるから、その地位の向上、改善を図る目的のため」を、同五行目末尾に「なお、組合は、右常勤講師問題に関する闘争としてスト権を確立したが、ストという影響力の大きな方法を取らずにリボン闘争を選択したものである。」をそれぞれ加える。

9  同七枚目表一行目「本件」の前に「一般的に、行政指導申入れは、私学の教育環境に不備、欠陥が存し、父兄や教員がその改善を求めているにもかかわらず私学経営者がその是正をしないときに、その問題点や改善すべきと思われる事項を摘示して、所轄庁に指導を求めるもので、これは、私立学校法が、私学の公共性を高め、私立学校の健全な発達を図るため(同法一条)に私学に対して必要な助成を行う(同法五九条)とともに、必要な監督を行うことができる(同法六一条以下)ことと定めている趣旨に適合するものであって、申し入れをなすこと自体はもとより適法な行為である。そして、」を加える。

10  同八枚目表四行目「人事権の濫用」を「不当労働行為 その二」と、同五行目を次のとおり改める。

「仮に、前記の被控訴人の本件組合活動に何らかの違法な点があったとしても、これに基づく処分が反組合的動機を本質的かつ不可欠な原因とする場合には不当労働行為が成立するものというべきであり、本件解雇は、次のとおりまさしく反組合的動機が本質的かつ不可欠な原因をなしているもので不当労働行為として無効である。」

11  同八枚目表六行目「本件解雇」の前に「控訴人は、組合結成以来、組合を嫌悪し、組合敵視及び排除政策のもとに組合活動を妨害していたところ、」を加える。

12  同八枚目裏六、七行目を次のとおり改める。

「(四) 解雇権の濫用

仮に、被控訴人の本件組合活動に何らかの違法な点があり、勤務規定所定の懲戒事由に該当するとしても、懲戒処分をなすについては、罪刑法定主義(処分の理由となる事由と懲戒の種類が予め定められているべきこと)、平等取扱いの原則(同じ規定に同じ程度に違反した場合、これに対する懲戒は同一種類、同一程度であるべきこと)、相当性の原則(懲戒は違反の程度に応じて相当なものであること)及び適正手続が要件となると解される。そして、本件においては、過去における組合活動によりなされた処分に比し、本件解雇は極めて重いものであること、本件解雇の原因となった事由は、いずれも組合の表現活動であるから、これを理由とする懲戒処分はできるだけ抑制的でなければならないこと、また、リボン闘争や文書配付に違法な点があり、本件行政指導申入れの内容に一部誤りがあったとしても、それらはいずれも軽微で違法性の程度は極めて低いものであること、さらに、控訴人は、本件行政指導申入れ書及び組合が配付した前記文書の内容の真偽につき厳密な検討を加えないで処分していることなどに照らすと、本件懲戒解雇は、不当に重い処分であり、解雇権の濫用として許されない。」

13  同九枚目裏八行目末尾に「なお、本件リボン闘争は、昭和五五年和解協定書(学園内においてプレートを着用しないとの合意)にも違反するものである。」を加える。

14  同一〇枚目裏一〇行目「錯誤」を「誤信」と改める。

15  同一二枚目表六行目「違反」を「服務規律違反」と改め、同一〇行目と一一行目の間に次のとおり加える。

「(四) 申請の理由3(四)の事実は争う。」

16  同一二枚目裏二行目「債務者」の前に「しかも、右違法な組合活動は、一般組合員の意思とかけ離れたものであり、被控訴人の独自の意思に基づいてなされたものであって、控訴人の度々の警告にもかかわらず何らの反省の態度を示さず、将来にわたってかかる行動をとることが予想される。したがって、」を加える。

第三  証拠の関係は、本件記録中原審及び当審における書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する(略)。

理由

一  申請の理由1(当事者)(一)、(二)の各事実は、(二)のうち債権者の組合における役職歴関係を除いて当事者間に争いがなく、原審及び当審における被控訴人本人尋問の結果(以下「被控訴人供述」という。)によれば、被控訴人が、学園に就職して以来本件解雇に至るまでの大部分の期間において、執行委員、書記長又は執行委員長という組合の役職にあったことが一応認められる。

二  申請の理由2の事実、すなわち、被控訴人が、(一)学園内において本件リボン闘争をしたこと、(二)登校してくる学園の生徒に対し、校門近くにおいて、本件生徒配付文書を配付したこと、(三)宮崎県総務課に対し、本件行政指導申入れ文書を提出して本件行政指導申入れを行ったこと、さらに、生徒父兄等に対しても同趣旨の内容の文書を配付したこと、(四)学園内において教職員に対し、本件抗議文書を配付したこと、控訴人は、(一)が勤務規定三〇条二号(「常に学園の名誉を重んじ、服装、言動その他職員としての品位を保つこと」との規定)に、(二)、(四)が同規定三一条二項(「職員が学校の施設内において、講習、集会、演説、放送をし、又は文書、図書を配付、あるいは掲示しようとするときは理事長及び校長の承認を経なければならない」旨の規定)に、(三)が同規定三二条四号(「職務上知り得た秘密を漏らし、又は学校の不利益となるおそれのある事実を他に告げることをしてはならない」旨の規定)にそれぞれ違反し、同規定四九条二号及び五号(二号は「上司の職務上の指示に従わず、学園の秩序を乱した場合」、五号は「職員としての品位を失い、学園の名誉を損する非行のあった場合」との規定)に該当するとして、同規定五〇条(懲戒方法を定めた規定)に基づき本件懲戒解雇をしたこと、以上の事実は当事者間に争いがない(なお、勤務規定の存在とその規定内容については成立に争いのない(証拠略)により一応認められる。)。

三  ところで、被控訴人は、解雇理由とされた前記各行為は、勤務規定の右各条項に抵触せず勤務規定所定の懲戒事由に該当しない、右各行為は、いずれも組合活動としてなされたものであるところ、いずれもその許された範囲内の正当な行為であって、懲戒処分の対象とならない、したがって、右の各行為を理由とする本件懲戒解雇処分は不当労働行為として無効である、さらに、仮に右各行為に何らかの違法な点があったとしても、本件懲戒解雇は、反組合的動機を本質的かつ不可欠な原因とするものであるから不当労働行為に該当する、あるいは、本件懲戒解雇処分は不当に重い処分であって解雇権の濫用にあたる旨、各主張する。

そこで、被控訴人が、本件行政指導申入れやその後の各文書配付及び本件リボン闘争等を行うに至った経緯及び個別の各行為の概況についてみるに、(証拠略)平成元年六月三〇日撮影した学園通用門前付近の写真であることに争いのない(証拠略)、学園の諸施設を撮影した写真であることに争いのない(証拠・人証略)を総合すると、次の各事実を一応認めることができる。

1  経緯

(一)  学園において、従前、教員は、専任教諭(当時はこれを常勤講師といっていた。)と特別の科目の授業のみを担当し期間一年とする非常勤講師とによって構成されていたが、控訴人は、将来の生徒数の増減予測と一過性の生徒数急増に対応するため、昭和六〇年度から雇用期間を一年として採用する常勤講師制度を導入し、その結果、学園の教員は終身雇用を目的とする専任教員のほか常勤講師と非常勤講師によって構成されることになった。右のように常勤講師は、非常勤講師と同様に勤務規定上雇用期間が一年と定められ、状況に応じ再雇用されることもあるが、その場合でも控訴人としては三年を限度とするとの方針で臨んだため、専任教員より身分保障としては弱いものがあった。このため、控訴人としては、常勤講師として採用することを明示して雇用契約を締結し、給与額は新規採用の専任教員よりも高くし、経験を積んだ上、将来公立学校等の専任教員等として進んで行ってもらいたいとの考えもあって、授業持ち時間数、学級担任及び校務分掌等については専任教員と同等の事務を担当してもらうこととしていた。

(二)  能丸淳一及び濱口誠の両名は、昭和六一年四月から学園の常勤講師として採用され、昭和六二年度も再度常勤講師としての雇用契約を締結して引き続き常勤講師として勤務していたが、昭和六三年三月二四日付けで控訴人から雇用期間満了の通知を受け、さらに、同月三〇日に昭和六三年度の雇用契約をしない旨の通告を受けた。

(三)  右期間満了前の昭和六三年三月七日、能丸及び濱口の両名は、控訴人に再雇用されない見込みであったため、組合活動としての団体交渉によって雇用の継続を図か(ママ)ってもらうことを目的として、同期採用の常勤講師であった右谷浩及び緒方浩とともに組合に加入した(右四名を含め、組合員数は二三名となった。)。これに対し、組合は、全面的に能丸、濱口らを支援し、同人らが専任教員として雇用されるようにすべく、常勤講師問題を組合の重要課題として取り上げて運動を展開していくことにした。

そして、同月九日、組合は、能丸、濱口らを参加させて職場集会を開き、これには日教組私学部執行委員長の碓田登(以下「碓田」という。)も出席して、組合員との間で意見交換を行ったが、その際、碓田は組合員に対し、父兄、生徒に対する働きかけや行政当局に対し指導を申し入れる方法等、控訴人に圧力を加えるべき運動方法を教示した。

(四)  そこで、組合は、同月一〇日及び一一日の二回にわたり組合員となった四名の常勤講師の専任教員化を要求して控訴人に団体交渉を申し入れ、同月二四日になって団体交渉が持たれたが、控訴人は、人事権に係る問題であるから団体交渉の議題とならない旨回答し、交渉は短時間で打切りとなった。

さらに、同月二五日、組合は、再度団体交渉を申し入れ、同月二八日、団体交渉が行われ、これには碓田も参加して交渉に当たり、能丸、濱口らの、採用当時、将来(二年目から)専任教員として雇用する約束があったとの主張に基づき右両名の雇用の継続を強く求めたが、右約束の事実を否定する控訴人側との間で争いがあり、また、控訴人の、人事権に関するもので団体交渉の議題とならないとの回答で、交渉は容易に進展しなかった。

そして、濱口及び能丸の雇用止めが明らかになった同月三〇日、組合は、重ねて両名の雇用継続を求める団体交渉の申入れをし、翌三一日に控訴人との間で団体交渉が持たれたが、双方の主張は前同様で、実質的な話合いにはならなかった。また、組合は、同年四月四日にも、両名の職場復帰の件について同月六日に団体交渉を行うことを申し入れたが、これに対し控訴人は、新年度を迎え多忙であるから期日を先にしてほしい旨求め、組合も一応これを了承した。

(五)  能丸及び濱口は、雇用止めの無効を裁判で争うべく、同月五日、宮崎地方裁判所延岡支部に地位保全等の仮処分を申請し(同支部昭和六三年ヨ第一三号事件、なお、右申請事件は、昭和六三年一二月二一日に右両名の申請を却下する判決が言い渡され、そのころ確定)、組合は、もとより右両名のため右訴訟を支援していくことにした。

しかし、一方で、組合は、前記碓田の教示に従い、右裁判闘争を有利に導くため、控訴人に圧力を加えるべき多面的な運動の展開を企図し、生徒、父兄への働きかけや本件行政指導申入れを行うことを決め、同年四月三日から、種々の組合要求を取りまとめる作業を行い、同月六日、教育条件の要求一五項目及び労働条件、設備その他の要求一二項目からなる控訴人理事会宛「要求書」(〈証拠略〉)を作成し、同日これを控訴人に提出した。

なお、右要求書の内容は、右のとおり、教育条件、労働条件、設備その他として極めて多項目の要求をするものであり、後述の本件行政指導申入れ書に記載された内容と同趣旨のほとんどのものを含んでいる。しかし、その表現方法は、後に判断するとおりの本件行政指導申入れ書のような非難、詰問、あるいは誇張的なものではなく、要求を端的に列記するものとなっている(例えば、保健室のベッドの件については「保健室のベッド、薬品庫などの設備は二三年も使用し、限界なので買いかえること」と、水道の件については「水道設備を完備し、断水でのトイレ使用禁止とか飲料不適にならぬよう全館市水道に切りかえること」となっている。)。

(六)  そして、翌七日、組合は、宮崎県総務部総務課(文教係)に対し、本件行政指導申入れ書を提出して本件行政指導申入れを行った。なお、組合は、本件行政指導申入れを行ったことについて、控訴人には、事前又は事後にも全く通告していない。

(七)  以上の経過を経て、組合は、学園の始業式当日である同月八日、生徒に対し、本件生徒配付文書を配付するとともに、本件リボン闘争を実行するに至ったが、さらに、同月一八日ころ、学園の二、三年生の生徒父兄宛に「御父兄の皆様へ」と題する文書を郵送して配付した。

なお、前記(四)の先送りした団体交渉については、同月一九日、組合において再度の団体交渉の申入れをし、同月二一日に団体交渉が持たれた。しかし、控訴人としては、既に訴訟が提起されており、これに対応していく意思であったことから、能丸、濱口両名の雇用継続問題については話し合いには応じられないとして右要求を拒絶し、控訴人と組合は厳しく対立する状態となった。

2  本件行政指導申入れについて

(一)  本件行政指導申入れは、前記の経緯により行われたものであり、本件行政指導申入れ書の内容は、別紙1「本件行政指導申入れ項目」(略)記載のとおり一八項目にわたるもの(右申入れ書に記載された内容の当否については、後記四1で改めて検討を加える。)であるが、右内容は、被控訴人において、同年四月五、六日ころ、前記要求書の内容や過去に申し入れをした要求等を検討し、執行委員及び大多数の組合員の了解を取り付けたうえ起案したものであるが、その文言は、被控訴人の判断のもとに確定されたものである。

なお、同申入れ書の名義人は、組合と宮崎県私立学校教職員組合連合会の連名とされている。

(二)  控訴人は、本件行政指導申入れにより、同月一二日ころ、宮崎県の担当職員の来訪を受け、学園で起こっている問題についての聞き取り調査を受けたほか、その後、県から控訴人所有の不動産の問題等の種々の項目についての問い合わせを受け、また、数回県当局に赴いて説明を行ったり、説明のため文書による説明文の提出を余儀なくされた。しかし、県から一定の項目につき改善指導を受けたとか、何らかの不利益な取扱いを受けたりはしていない。

(三)  また、組合が同月一八日ころ学園の二、三年生の生徒父兄宛に郵送配付した「御父兄の皆様へ」と題する文書は、組合が県に対し行政指導申入れを行ったこと及び県当局からよく検討して指導するとの返事を得たことを頭書として付したうえで、同申入れ書の記載内容を掲記するという体裁のものである。右文書の記載内容は、大略本件行政指導申入れ書のそれを転記したものであるが、子細にみると、多くの点で本件行政指導申入れ書の文言の変更、加除等の修正が施され、一見婉曲な形に改め(例えば、「指導責任はないのか」を「県当局はどうお考えですか」など)、また、事実の修正をしている(例えば、項目〈6〉の「三時間」を「二時間」とか、同〈7〉の「数十万円」を「十数万円」と改めるなど。)。右修正等につき、被控訴人は、県への申入れの後、組合員の間で摘示事実についてさらに検討し、父兄宛の文書ということを配慮して表現を改めた旨述べている。なお、組合は、右文書を直接あるいは宮崎県私教連や日教組私学部を通じて、宮崎県内及び九州内の教職員組合を中心とした労働組合や教育関係団体にも配付した。

さらに、組合は、同月二五日ころにも、学園の生徒の父兄宛の「学校側の文書の特徴と私たちの考え」と題する組合名の文書を送付した。同文書は、控訴人の同月一三日付父兄宛通知書に記された能丸、濱口ら両常勤講師の雇用止め問題についての見解を批判する内容のものであったが、その中にも、行政指導申入れ書の記載内容と同旨の摘示事実が記載されている。

(四)  以上の組合による各文書の配付により、同年五月一九日、学園の父母の会の新旧会長が、本件行政指導申入れ書に記載された内容が事実かどうかを確認するために、学園を訪問して学内を見て回るということがあり、さらに、控訴人が中学校を訪問して行っている入学説明会の席上や中学校の父兄が学園を訪問した機会に、学園の水道の衛生問題等が話題とされるなどした。

3  生徒への文書配付及び本件リボン闘争について

(一)  昭和六三年四月八日、学園においては、春休みが終わり二、三年生の始業式が行われることとなっていたところ、被控訴人のほか組合員である教員約二〇名で、同日午前八時前ころから同八時半までの三〇分余りの間、生徒が必ず通過する学園通用門前の道路(門とは車道を隔てた向かい側の自転車道上)において、登校する生徒に対し、これを両側から挟み込むような形で、本件生徒配付文書合計七、八百枚を配付した。なお、右配付を行うについては、学園の組合員たる教師のほか、前記濱口及び能丸、さらに、碓田、宮崎県私立学校教職員組合連合会の武本書記長も参加した。そして、学園の組合員は、始業時刻前の午前八時一五分ころ文書配付をやめて校内に入った。

(二)  本件生徒配付文書は、別紙2(略)のとおりであるが、「真実をお知らせします」との大見出しのもとに、能丸及び濱口が、四月からの採用を拒否されたこと、両名とも二年前に採用されたとき校長から「本校は一年間は常勤講師として、二年目から教諭」との約束を受けていたこと、両名はこれまで熱心に指導に当たり生徒との信頼関係が作り上げられていたこと、こんなことがまかりとおれば先生が落ち着いて教育に専念できず生徒一人一人を大事にする教育ができない、組合は両名を学園に戻すよう頑張ることなどが記載されている。

(三)  右当日は、午前八時二五分から職員朝礼があり、続いて各教室でのホームルームの後、全校大掃除が行われ、午前一〇時から始業式が行われた。組合員は、職員朝礼のときから始業式の始まる直前までの約一時間半、リボンを着用した。その間、着用開始直後の午前八時三五分過ぎ、太田校長(理事)が組合副委員長井上に対し、リボンの取り外しを命じた。なお、組合員は、既に通用門前での生徒へのビラ配付のときからリボンを着用しており、本来終日着用する予定であったが、一部組合員の反対もあったなどの事情により始業式直前に中止したものである。

(四)  リボンは、幅約二センチメートル、長さ約一〇センチメートルで、黄色地に「明るい学園をつくろう」という文言が記載され、組合員はこれを着衣の胸付近又はズボンの上付近に付けていた。

(五)  また、生徒への文書配付及びリボンの着用については、前日開かれた組合職場会において、被控訴人主導のもとに討議、可決されて、各記載内容・文言が確定されたものであり、生徒への文書配付は組合員全員の賛成で、リボン着用は二名を除く賛成多数でそれぞれ決定されたものであった。

(六)  なお、組合と控訴人との間には、昭和五五年八月二三日に宮崎県地方労働委員会立会いのもとに成立した昭和五五年和解協定書が存し、その合意事項の中には「組合は、学園内においてプレートの着用はしないものとする。」との項目が含まれている。

4  学園内における本件抗議文書の配付について

(一)  前記能丸、濱口らによる地位保全等の仮処分の申請以来、訴訟遂行、立証活動を通じて、組合と控訴人は鋭く対立するに至っていた。

そして、組合は、能丸、濱口ら主張の、二年目から専任教員に採用するとの約束があったとの事実を立証するため、能丸らと同期の常勤講師で、同時期に雇用止めになり控訴人を退職して、熊本県の私立高校である熊本中央女子高校に常勤講師として勤務していた右谷浩に依頼して陳述書を作成してもらい、これを右訴訟の疎明資料として提出した。

(二)  右陳述書は、自分についても教諭に採用していくとの約束があった旨や、在任中の事実経過に関するものであるが、その中に、学園側、特に太田賢一郎校長(昭和六二年までは教頭)の言動を厳しく批判し、あるいは「熊本中央女子高校の甲斐副校長から転職の件で学園の右谷に電話があった際、受信した者が右谷に取り次がないばかりか右谷を非難中傷する内容の応答をしたことがあり、転職を妨害された」とか、学園に教員免許を有しない者(臨時免許状による教員を指す。)がいるとかの表現がされていた。このため、太田校長や免許を持たないものと暗に指摘された自動車科教員須田利久は、右記載が虚偽であるとして立腹し、右訴訟で争点となっている点は別として、右のような虚偽は訂正させるべきと考え、また、太田校長としては、右谷が熊本に転職する前、宮崎日大高校の教員試験を受験し、その際、学内における秘密資料である担任した生徒の成績一覧表を持ち出して提出したことがあったことから、右資料の返還も求めるべきと判断した。

そこで、太田校長は、昭和六三年五月三一日、熊本女子中央高校の右谷に電話し、右記載が虚偽であると非難するとともに、右成績一覧表の返還を求め、自ら出向いて同高校の校長に会いに行くと述べた。

(三)  右谷は、その日の夜に被控訴人に電話して、太田校長からの電話の内容を伝え、熊本中央女子高校での身分が不安定になることへの危惧を訴えた。

そこで、被控訴人は、直ちに執行委員に連絡を取って抗議文作成を諮り、その夜の内に自ら別紙3(略)の本件抗議文書を作成して、翌六月一日朝執行委員会で右抗議文を控訴人理事会に提出するほか、抗議の実効性をあげるため学園の全教職員にも配付することを決めた。教職員に対する配付は、封筒に入れたうえで、勤務時間外になされた。

右抗議文書は、控訴人理事会宛の組合名の文書であり、「たびかさなる裁判への妨害活動と人の一生を左右する人権侵害をただちに停止されるよう怒りとともに訴えます」との標題のもとに、太田校長が右谷に電話をして、陳述書の虚偽記載に抗議し、さらに生徒の資料を外部に提出したことにつき「熊本に行って君の学校の校長、副校長に君のことをあらいざらいぶちまける」と述べたこと、右谷が陳述書を提出したが故に不当ないやがらせや報復を受け、そのために一生を棒に振るおそれがあること、一刻も早くそのような攻撃を停止するように指導して欲しい旨を記載した内容のものであった。

(四)  右抗議文書が配付された当日の同年六月一日、学園事務長佐々木雅彦及び右須田ほか一名の教師が熊本に赴き、昼休みに右谷を熊本中央女子高校付近の喫茶店に呼び出して、陳述書の記載中に、前記転職妨害があったとの点や臨時免許状を有する教師につき「教員免許を持たない」と書くなど虚偽があることの確認を求めた。右谷は、これに対し、「臨時免許状は正式な免許ではない」等の応答をし、自己の陳述の訂正はしなかった。佐々木雅彦ら三名は、放課後も右谷と会いたい旨要望したが、右谷から会見を断られたため、熊本中央女子高校に入って甲斐副校長に面会し、前記右谷の記載した転職妨害があったとの点について、学園職員が右谷を非難中傷する発言はなかったことを確認した。

(五)  右同日、再度の連絡を受けた被控訴人は、同日付で、「人の一生をふみにじらないで下さい・裁判を妨害しないで下さい・再度訴えます」との標題のもとに佐々木雅彦ら三名の行動を伝える別紙4(略)の本件抗議文書を作成し、翌二日、これを控訴人理事会に提出するとともに、前同様、学園の全教職員に配付した。

(六)  ところで、学園の施設内における文書配付等に関する規定については、前記のとおり、勤務規定三一条二項に「職員が学校の施設内において、講習、集会、演説、放送をし、又は文書、図書を配付、あるいは掲示しようとするときは理事長、校長、事務長の承認を経なければならない。」と定められているが、右規定は、昭和五五年四月一日施行の旧勤務規定以来一貫して存していた。

しかし、組合と控訴人間に成立した昭和五五年和解協定書三項において、「学園内の組合機関紙の配付については、学園は、組合活動として尊重すると共に、組合は、学園が教育の場であるという特殊な環境を配慮し、次のとおり行うものとする。」として「(1)組合機関紙は従来どおり承認を経ずに配付することができる。(2)欠席の職員(非常勤職員等)に対しては封筒に入れる等生徒の目に入らないよう配付するものとする。」旨約された。なお、同協定書五項において、「生徒を介しての組合文書の配付については、団体交渉において協議するものとし、その間一定の結論を得るまでは行わないものとする。」と約し、組合機関紙と組合文書については建て分けられて合意されている。そして、昭和六二年一一月二〇日に組合が組合員の机上に学習会案内のチラシを配付したところ、翌二一日に、学園教頭が被控訴人に対し、右チラシ配付は無許可配付であり勤務規定違反になると注意したことがあったが、控訴人が、右規定により、組合文書の配付について、事前の承認を得ていないとして配付を差し止めたりしたことはなく、組合も事前に承認を求めたりすることはなかった。

四  次に、控訴人は、本件訴訟において、本件懲戒解雇理由書に記載された具体的事実と同一性のある事実を本件懲戒解雇の事由として主張し、懲戒理由(適用法条)については、理由書に記載された勤務規定四九条二号及び五号を維持するものであるが、その前提として、右主張にかかる各解雇事由はいずれも勤務規定第四章に定める服務規律に関する規定に違反するもので、勤務規定所定の懲戒事由に該当すると主張しているものであるから、同条四号所定の懲戒理由(〈証拠略〉によれば、四号は「第四章に定める服務規律(遵守事項、承認事項、禁止事項、登下校)に違反した場合」との規定であることが一応認められる。)をも併せ主張しているものと認められる。以下、前記各行為毎にその懲戒事由該当性等について検討する。

1  本件行政指導申入れについて

(一)  控訴人は、本件行政指導申入れをして、同申入れ書を宮崎県総務部総務課ほか学園の父兄やその他の団体に配付したのは、その記載内容に照らし、勤務規定三二条四号の禁止事項(職務上知り得た秘密を漏らし、又は学校の不利益となるおそれのある事実を告げること)に違反すると主張する。そこで、まず、別紙1(略)の各項目について個別に順次検討を加える。

(1) 項目〈1〉について

右項目の全体としての趣旨は、常勤講師制度の廃止を求める趣旨と認められ、(証拠略)によると、学園は、学校要覧、父母の会会員名簿に、学園の教員の構成としては教諭と非常勤講師に分けて記載し、常勤講師は教諭として表示していることが一応認められる。そして、常勤講師制度は、前記認定の一過性の生徒数の増加に対処するためやむを得ず取り入れられたとはいえ、生徒との信頼関係の構築や教育の継続性、安定性、充実性等の観点から、また、常勤講師の身分の不安定性など、問題の存することは否定できない面もあり、その制度としての当不当の点は見解の分かれるところといわなければならない。したがって、この問題が団体交渉の議題となるか否かは別として、組合がこれに対する一定の認識、評価のもとに、その廃止を求める見解を表示することについては、これを不当ということは出来ない。

しかし、その中で「生徒に目がむかず経営者にばかり目がむいて教育がおきざりにされてしまっています。」とか、「職員に解雇の不安を蔓延させています。」と摘示している点は、事実として本件各証拠によってもにわかにこれを認め難いものであるばかりか、仮に一部の常勤講師の間にそのような不安があるとしても、表現としては誇張に過ぎるもので当を得たものということはできない。そして、(証拠・人証略)によると、県内の多くの私立学校において常勤講師制度が採用されていること、学園が常勤講師の占める割合において他校より多いとはいえ、学園として教育の充実に配慮していることが一応認められるのであって、結局、右のような表現は、学園における教員及び教育の実情について、組合もしくは被控訴人の独自の認識、判断や誇張に基づく不相当な事実を摘示して学園を不当に非難し、もって学園の社会的評価を低下させて、その名誉を棄損するものといわざるを得ない。

(2) 項目〈2〉〈3〉について

〈2〉は、控訴人において「今年(昭和六三年)になって一度も理事会が開かれていない」ことを摘示しているが、(証拠略)によると、控訴人において昭和六三年一月と二月にそれぞれ理事会が開催されたこと、理事会としては、常勤講師がもともと一年の期限付き採用であることから、その対応は校長以下学園当局に一任しており、したがって、理事会において、ことさら、能丸、濱口らの雇用止めについては議題にされなかったことが一応認められる。そして、右記載は、雇用止めに関して理事会の決議等がないことを摘示しているのではなく、一度も理事会が開かれていないと摘示するものであるから、明らかに事実に反するものである。

次に〈3〉は、「一人の監事がもう一人の監事の名前すら知らない」旨摘示して、監事の職務執行が怠慢で、運営が杜撰である旨主張するものであるが、(証拠略)によると、組合員から質問を受けた控訴人理事会監事渡部憲市は、他の監事の名前はもとより知っていたが、組合員がその監事のもとに赴き組合との問題に巻き込まれるのを防ぐため、敢えて知らない旨答えたに過ぎないことが一応認められめる。そして、常識的にみて、監事が他の監事の名前を知らないなどということは容易に考え難いものであるから、右質問をした組合員もしくは被控訴人において、渡部憲市の右言葉の真意を確かめるべきで、しかも容易に確かめられることである。

被控訴人は、右認定のとおり、〈2〉〈3〉のいずれについても一応事実確認をしたものであると供述するが、その確認は極めて不十分なものであり、しかも、かかる不十分な確認に基づき、あるいは言葉尻を捕らえて、断定的に「一度も理事会が開かれない」とか「監事の名前も知らない」「ずさんな運営」と記載し、県当局に「指導責任はないのか」と詰問的に求めているのであって、その表現は軽率かつ不当との誹りを免れない。

そうすると、〈2〉〈3〉は、いずれも事実に反することを摘示して控訴人を不当に非難するものであり、特に理事会の開催は控訴人としての法的義務であるし、監事は監査、監督的機能を有すべきものであるから、結局、右摘示は、控訴人の理事会運営が違法であるとするもので、事実に反し、控訴人の名誉を棄損するものに該当するということができる。

(3) 項目〈4〉について

〈4〉は、控訴人が、「正式」免許を所持しない「臨時免許状」を有するに過ぎない者を多数採用して教壇に立たせ、しかも学園における管理職等の要職につけていることを非難し、その改善を求めるものであるが、(証拠略)によれば、教職員の免許については、教育職員免許法四条一項により「普通免許状」、「特別免許状」及び「臨時免許状」の三種類(ただし、昭和六三年四月当時は同年一二月法律一〇六号による改正前の同法四条一項により「普通免許状」と「臨時免許状」の二種類のみ)が定められ、いずれも教員の資格として適法なものであること、学園には「普通免許状」ではなく、自動車科で特殊技能が必要な者等「臨時免許状」を有する教員が一〇名ほどいること、その内の五名ほどが学級担任を、二名ほどがクラブ顧問をしており、さらに三名が部長・副部長という管理職(総員数は九名)に就いていることが一応認められる。

右事実によると、「正式」という表現は「臨時免許状」を正式でないとするもので事実に反するし、しかも、〈4〉の記載は、「正式」免許を有しないものが多数いるが、これが公教育の場で許されるのかと詰問的に問うことによって、いかにも「臨時免許状」が法によって許されない不当なものであるかのように印象づけるものであり、ことに、本件行政指導申入れ書が父兄にまで配付されたことを考慮すると、父兄は免許の種類についてあまり知識がないと思われるから、右の点は、学園がいかにも適法な資格のない教員を採用しているかのように印象づける結果となることは明らかである。そうすると、〈4〉の記載は、表現として不正確かつ不当なものというべきである。

(4) 項目〈5〉について

〈5〉は、「半分公費の学校法人の土地が理事長の家族に譲渡されているみたいだが県当局は無関心でいいのか」と問い掛けるものであるが、(証拠略)が平成元年六月一日に撮影した登記簿謄本交付申請書の写真であることに争いのない(証拠略)を総合すると、同項目で指摘されている土地は、(住所略)の宅地を指すものであり、控訴人理事長佐々木秀雄個人の所有地であること、同土地を右佐々木秀雄の二男である佐々木龍彦が賃借し、昭和五二年に二階建事務所・車庫を建築して以後法律事務所として使用していること、被控訴人ら組合員は、同土地上に以前学園の施設が建っていたのが壊されて右法律事務所が建てられたために、学校法人の土地が控訴人理事長の家族に譲渡されているのではないかとの疑念を抱いたこと、そして、被控訴人は、組合員緒方浩をして、本件行政指導申入れ書作成前の昭和六三年三月三一日、同土地及び地上建物の各登記簿謄本を取り寄させたにもかかわらず、何ら所有権関係の確認をしないで、右疑念を文章化して起案したものであること、その後昭和六三年五月に控訴人側から間違いを指摘され、組合においてもそれを確認しながら、訂正あるいは陳謝することなく、「疑念を表明しただけで、譲渡を断定していない。学校法人の経理の公開要求を拒否している控訴人の態度にこそ問題がある」との見解を述べるなど、かえって反駁していることがそれぞれ一応認められる。

右の事実により検討するに、当該記載は、控訴人理事長が学校法人の財産を私物化していることを示唆するもので、控訴人理事長個人の名誉を毀損することはもとより学校法人の権利に対する不正、不信を抱かせる内容のものであるから、そのような疑念を抱いたとしても、これを監督官庁等に表明しようとするときには、それが相当な資料によって裏付けられるかを慎重に検討すべきであり、しかも、その調査、確認は極めて容易(被控訴人は、この点につき種々弁解するが、いずれも不合理で到底措信できない。)であるから、その作業を疎かにしたまま安易に疑念を表明することは、事柄の重大性に鑑み、厳に戒むべきことである。この点からすると、登記簿謄本の取寄せまでしていながらそれを調査しないで、被控訴人の主観的判断に基づき疑念をそのまま記載したことは、いかにも軽率の誹りを免れず、控訴人理事長個人の名誉毀損及び控訴人の信用を損なう不実の記載をしたものとして被控訴人及び組合は、厳しい非難を免れない。さらに、間違いが判明したときには、それを率直に訂正・陳謝するのが肝要と思われるところ、前記の「断定してはいない」との組合見解は遁辞に過ぎず、また、経理公開の要求の点が背景事情に存するとしても、それは当該記載の不実性を緩和するものとはいえず、結局反省の情なしとの非難もこれまた免れ難い。

(5) 項目〈6〉について

(証拠略)によると、副理事長佐々木國夫は、高齢の理事長佐々木秀雄の送迎を兼ねて、毎日昼食のため二時間位、公用車で帰ることが一応認められ、そうすると〈6〉の摘示事実は、客観的事実として、時間の点を除き、特に事実に反するとはいえない(全面的に「私的なこと」と断定している点に問題がないとはいえないが、取り立てて不当とまではいえない。)。したがって、右の事実が、格別、批判、非難すべきものといえるか、また、かかる事柄が監督官庁に申し入れをすべきものといえるか疑問なしとしないものの、組合が、かかる見解を表示すること自体は、違法あるいは不当なものとして取り上げるべきものではない。しかし、本件行政指導申入れ書全体の脈絡からすると、同記載の趣旨は、要するに、控訴人に公費の不正使用があるかのように印象付けようとする意思に基づくものというべきで、この意味において、右記載は、文書全体のなかで評価されるべきものといえる。

(6) 項目〈7〉について

(証拠略)が平成元年六月三〇日に撮影した学園保健室の写真であることに争いのない(証拠略)を総合すると、学園の保健室には相当古い木製のベッドが二台あり、他校から譲り受けて長年買い換えずに使用し続けているが、未だ使用に十分耐えること、最近診察台が二台購入され保健室に置かれたこと、組合が、以前(前記認定の要求書を除く。)ベッドの買換えを控訴人に対して要求したことはなかったし(被控訴人は、過去に組合が要求した事項として保健室に関するものがあると供述するが、こじつけというほかない。)、養護教諭等から伺いなり購入願いなりの手続を経た買換えの申出もなされてはいないこと、他方、理事長室に近接した日本庭園には、数本の樹木が植えられており、その価格は高くても一本二万円程度のものであり、数十万円はおろか十数万円もするものは一本もないこと、被控訴人が数十万円という価格を記載したのは、組合員の一人が聞いたという噂程度の話に基づくものであること、被控訴人あるいは組合が樹木の価格を調査、確認することは極めて容易であるのに、何らこれをしていないことがそれぞれ一応認められる。

右事実により〈7〉記載の内容について検討するに、当該記載は、善解するに、県の控訴人に対する補助費が、生徒の衛生等のために必要な施設には使われず、かえって日本庭園に高価な樹木を植えるといった無駄遣いがなされていることを訴え、その改善指導方を求める趣旨の内容であると理解できるが、まず、必要な支出を怠っていることの例としてあげられる保健室のベッドの件については、古いベッドではあるが現在も使用され、なお使用に支障はないことに照らすと、買換えが必要とまでいい切れるものではないし、さらに、「いくら要求しても」と記載されている点は、組合が買換えを要求したことは認められず、また、控訴人が買換えを拒絶したという事情も窺われないから、被控訴人がかかる表現をするのは、事実をことさら歪曲したものといわざるを得ない。さらに、日本庭園の樹木の件について、「一本数十万円の木」が「ぼんぼん」植えられているというのは明らかに事実に反し、虚偽、誇張というほかない。結局、当該記載は、虚偽の事実あるいは不当に歪曲、誇張した事実を摘示して、「県費がこんなかたちで教育無視につかわれても行政に責任はないのか」と詰問することによって、控訴人による補助金の不正使用を印象付けるものであり、控訴人の名誉及び信用を著しく毀損するもので、違法なものといわざるを得ない。

(7) 項目〈8〉について

〈8〉の記載は、大量の退学者及び休学者が出ていることを指摘してその指導を申し入れる趣旨であると理解されるが、(証拠略)、被控訴人供述によれば、右の退学者及び休学者の数については、相当な根拠のある統計、調査の結果に基づくものであると一応認められる。しかし、退学者、休学者があるとの点は、まさに生徒指導のあり方等教育内容、方法、教員の教育に対する熱意等に係わるものであり、それが控訴人の責めに帰する理由によるものと一方的に判断することは到底できない事柄であるのに、暗に控訴人にのみ、その責任があるかのように思わせ、しかも、「県当局は教育に指導はできないのか」と問うことによって、県による教育内容に立ち入った干渉を求めるかのような表現は、教育者の態度として相当とはいえるのか疑問を呈さざるを得ない。

しかし、同記載の事実自体は虚偽とはいえず、控訴人に責任があるかのような具体的な事実を摘示しているわけではなく、見解の当否を問うことはできないから、組合がそのような見解を表明すること自体は、違法、不当ということはできない。

(8) 項目〈9〉について

〈9〉の記載は、常勤講師に関する記載であるが、学校要覧等において常勤講師を教諭として表示していることは前記のとおりで、新規採用した人員についても佐々木供述等によって一応認められるところであり、「簡単に解雇される」との表現は適切とはいえないが、摘示した事実としては特に誤りはなく、組合としての見解を述べるものであるから、これを違法、不当とすることはできない。

(9) 項目〈10〉について

〈10〉の記載は、学園の教員の賃金が公立高校や他の私立高校と比較してかなり低く、さらに、組合員は非組合員と比べ不利益な賃金差別を受けているというものであるところ、(証拠略)に照らし、控訴人が、学園の教員のうち、組合員たる教員と非組合員たる教員との間に勤務成績の評価、査定において、各自の能力を無視してことさら思想、信条を理由とする差別的取扱いをしているとの事実を認めるに足りず、したがって、「不利益な賃金差別」という表現は穏当とはいえず、また、他校との賃金の比較が正確なものか疑問なしとしないが、(証拠略)を総合すると、当該記載は、いずれも被控訴人において調査した資料に基づくものであると一応認められ、各資料につき全く信用できないとしてこれを排斥することもできないから、右記載は不当であるということはできない。

(10) 項目〈11〉について

〈11〉の記載は、学園における組合活動に対する実情として、「一切の組合の基本的活動が禁止され、不当労働行為がまかりとおり、組合潰しがおこなわれ、憲法がまったく通用しない」というものであるが、右記載は、事情を知らない第三者や読む者をして驚かしめる内容というべきで、控訴人の名誉、対外的信用に極めて大きく係わることであるから、かかる表現をする以上相当の根拠が必要ということができる。

ところで、文書配付に関する勤務規定の定め及び昭和五五年和解協定による協定書の合意事項は前記認定のとおりであり、これによると、学園において文書を配付する場合、原則的にすべて理事会の承認を要するものとされているが、右和解協定書の「組合機関紙は従来どおり職員に配付できる」とされていることから、右勤務規定にかかわらず、従前から組合機関紙は自由に配付されていたことが認められ、また、控訴人が事前に文書配付を差し止めたりしたことのないことも前認定のとおりであるし、本件疎明資料として提出されている過去に配付された多数の組合文書からみても、学園において組合による文書活動は極めて活発になされていたことが明らかである。さらに、(証拠略)に照らすと、組合は昭和五〇年代にはかなり過激な闘争を行っていたことがあることや、控訴人が違法、不当に団体交渉を拒否したとの事実も認められず、現に本件常勤講師問題を組合として取り上げて以来、組合としてスト権を確立するなど活発な運動を展開しているところである。そうすると、組合の要求が控訴人に受け入れられないからといって、これをもって一切の基本的活動が禁止されている、不当労働行為がまかりとおっている、憲法が全く通用しないなどというのは、組合の一方的見解で、しかも誇張、誇大な不当なものといわざるを得ない。そして、右の摘示事実の事柄上、単に組合の見解の表明として許されるものということはできず、控訴人の名誉、信用を棄損するものに該当するというべきである。

(11) 項目〈12〉について

〈12〉は、疑問符付きの形ではあるが、スリッパの買換えを義務付けるなど控訴人理事長の家族の利益優先の学園経営がなされていると指摘するものであるが、(証拠略)を総合すると、控訴人理事長佐々木秀雄の三男である佐々木祐輔が学園内の売店を経営し、ジュース自動販売機を設置していること、学園では、スリッパ盗難が数多く発生したことから、盗難解消策として生徒指導部が毎年の買換えを発案して採用になり、昭和六二年の新学期から全生徒に新年度毎にスリッパの買換えを義務づけるようになり、それを学園内の売店で購入すべきこととしたこと、その後スリッパ盗難はほとんど無くなったこと、学園内にはジュースの自動販売機が数台設置されているが、組合は、昭和六一年度の控訴人に対する要求の中で自動販売機の撤去を求めており、また、このことは職員会議でも検討されていることが一応認められる。これによると、控訴人理事長の家族による売店の経営、スリッパの買換え、自動販売機の設置等の事実は、何ら事実に反するものでないが、いずれも学園内で検討されたうえなされたもので、ことに控訴人理事長が指示したことは認められないのに、一方的に組合の見解に従い、「必要ないのに買換えさせられる」とか、「どんなに抗議しても撤去しません」と記載し、また、十分な根拠のない憶測を疑問符付きの形で記載して、読む者をして控訴人理事長が家族の利益を優先した学校経営をしていると印象づける意図を有していることが看取される。したがって、同記載は、控訴人や控訴人理事長の名誉に係わることであり、全体の趣旨としては、憶測に基づくものとして適切さを欠くというべきであるから、若干の不当性は否定できない。

(12) 項目〈13〉について

〈13〉は、学園における特別奨学生制度に関し、クラブを辞めたら入学以来の一〇〇万円もの授業料の支払いを催促され、支払えなかったために除籍になった、さらに、同じく特別奨学生でクラブを辞めたものについて「それを苦にしたかどうかは分からないが自殺した生徒が出た」というものであるが、(証拠略)を総合すると、学園には部活動奨学生(クラブ特待生)の制度があり、奨学生は、入学金、授業料及び寮費等の支払を全額又は一部免除されるという特典を与えられるが、長期疾病や休学等により奨学生としての適格性に欠けるに至ったときには、既に免除された金額を弁償させられることがある旨規定されていること、バレーボール部の特別奨学生として昭和六一年に入学した女子生徒木村千穂は、昭和六二年の二学期から怠学が目立つようになり、同年九月は六、七日しか出席せず、その後一〇月からはほとんど出席しない状態となったこと(出校停止となった事実は認められず、通常の欠席となっている。)、同人が退部を申し入れた後に学園からそれまで免除されていた入学金、授業料及び寮費の支払を請求されたこと(なお、同年一一月分までの授業料の支払はなされている。)、その後昭和六三年二月に保護者から退学の申し入れがなされ、担任による伺い書(担任の所見として「バレーに興味をなくし、退学の意志を申し出たもので、止むを得ないと判断する」旨記載されている。)が提出されて許可され、昭和六二年一一月三〇日付けで退学となったこと、右木村千穂について、被控訴人や組合員は、寮生の間の風聞から同生徒が授業料等の支払をしないで除籍になったと思ったこと、被控訴人や組合において、右木村の件について調査、確認した形跡はないこと、昭和六三年初めころ、野球部の特別奨学生であった二年生の男子生徒川並克典が自殺したこと、当時同生徒は腰を痛めて練習が出来ず、医者から将来野球をするのは困難である旨いわれて悩んでいたこと、被控訴人は、葬儀の際、同人の父から、同人が野球ができなくなったことを悩んでいたことを聞いていたこと、以上の事実が一応認められる。

右の事実によって検討するに、当該記載は、一応はクラブ特待生の制度に存する不当性を訴える趣旨に理解できるが、まず、木村の件について摘示している事実は、その経緯及び自主的退学と除籍という点で全く異なるものというほかなく、しかも、組合としては右事実の確認は容易であるのに、安易に風聞を鵜呑みにしている点においても軽率、不当との誹りを免れない。さらに、川並の自殺の件の記載は、被控訴人の誤認した事実である木村に対する授業料等支払請求・出校停止処分・除籍と関連付け、自殺の原因を究明しないで「それを苦にしたかどうか分からないが」と、事の重大性を考慮せず、ことさら留保付きの形で、「自殺者まで出ている」、「このような理不尽をいったい誰が指導してくれるのか」と記載して、読む者をして関連があるかのように思わせる意図が明らかに認められるものである。

以上によると、被控訴人の〈13〉の記載は、極めて無責任というほかなく、しかも、自殺という衝撃的な事柄であるだけに、同記載は、学園の特別奨学制度に対する誤解と不信を招き、学園の対応に重大な手落ちがあるかのように述べて、控訴人の名誉、信用を棄損する不当なものというべきである。

(13) 項目〈14〉について

〈14〉は、学園において、「労働条件が劣悪なため」教師の多数の「中途退職者」が出ているというものであるが、(証拠略)によると、被控訴人が摘示した退職者の数は、専任教諭のほか、常勤、非常勤講師を含めて算出し、その大多数は常勤、非常勤講師の数であることが一応認められる。そうすると、右退職者の数についての記載は一応の根拠があり、事実に反するものとまではいえないが、前記認定のとおり、常勤、非常勤講師は雇用期間を一年以内と限定して採用されるものであるから、その制度の当否は見解が分かれるとしても、この数を中途退職者として挙げ、しかもその原因を、「労働条件が劣悪なため」というのは、全く飛躍した議論といわざるを得ない。そして右記載は、常勤講師の雇用形態について知らない者をして、学園の教員が低賃金等の劣悪な労働条件のもとに置かれているものと誤信させる不当なものといわなければならない。

(14) 項目〈15〉について

〈15〉は、控訴人が学園の施設ばかり大事にして、そのため床が汚れるとして美術の授業で絵の具を使用させず、そのため美術の教員が憤慨して辞めたというものであるところ、被控訴人供述、佐々木供述、太田供述によると、美術の教員が昭和六三年三月に退職したこと、被控訴人は、寮の舎監をしていた組合員の緒方浩が右退職した教員から「校長から床を汚すといけないので絵の具を使わないようにという指示を受けた」という話を聞いたことは一応認められるが、学園の美術の授業において、絵の具の使用が禁止されているとの事実は認められない。そして、被控訴人において、美術の授業の実情を知ることは極めて容易であり、また、美術の教員の退職理由についても容易に調査、確認しうるものといえる。

そうすると、被控訴人は、風聞に等しい伝聞を何ら調査、確認することなく、断定的に事実の如く記載しているものであって、読む者をして学園の美術の授業では絵の具が使用できないかのように誤信させるもので、不当なものというべきである。

(15) 項目〈16〉について

(証拠略)を総合すると、昭和六三年度における学園の教員の構成については、数学科では全部で五名いるうち、二名が教諭(専任教員)、二名が常勤講師、一名が非常勤講師であり、また、国語科では全部で七名いるうち、二名が教諭(専任教員)、三名が常勤講師、二名が非常勤講師であったこと、入試問題の作成に常勤講師が関与しているが、作成責任者は教諭となっていることが一応認められ、そうすると、〈16〉の記載は、事実として反するものではないし、組合がかかる状況について批判的見解を述べること自体は、不当とすることはできない。

(16) 項目〈17〉について

〈17〉は、結論的には、学園の水道施設につき、大部分を地下水の利用に頼っている現状を指摘して、全面的に市の水道に切り換えるべきであると主張するものと理解できるが、その理由として「夏は大腸菌、冬は断水でトイレに困る」との事実を摘示している。

そこで検討するに、(証拠略)を総合すると、学園のある大峡町では、以前市営水道が引かれておらず、控訴人は、校舎の水道に地下水を利用していたこと、その後、大峡町にも市営水道が敷設され、学園としては昭和六二年春に新校舎が建築された際、その一、二階に市営水道を引くようになったが、新校舎の三ないし五階及びその余の校舎では従前どおり地下水を利用していること、昭和四七年秋に井戸水の水質検査を行ったところ、「大腸菌群陽性・飲料不適」との結果が出たことがあること、学園の水道から大腸菌が検出されたのは、本件行政指導申入れ書が提出された時点までは、そのとき一回限りであること、昭和五五年二月に調理科の生徒数名が腹痛を訴え一人の生徒が入院したのを契機に保健所職員が来校して検査をしたところ、調理室の水が残留塩素の量が少ないという理由で不適格と判断されたこと、そのため、控訴人は、直ちに調理室の水に自動滅菌装置が付けられ残留塩素の量は適性となったこと、なお、右生徒達の腹痛に関しては、水道の大腸菌等の細菌が原因であるという検査結果はなく、水道水による食中毒の可能性についても、保健所は、これを否定する判断をしていること、地下水による水道は、冬場の渇水あるいは凍結のため断水することがあり、昭和五八年ころには断水のため一部のトイレ使用ができないことがあったこと、組合は、昭和五〇年代、度々、市営水道への切替えや水道施設の完備等の要求をしていたこと、以上の事実がそれぞれ一応認められる。

右事実によると、本件行政指導申入れ書が提出された当時までに、学園の水道から大腸菌が検出されたのは、昭和四七年という一六年も前の一回だけであり、断水も、少なくとも度々あったことは到底認められないところ、「夏は大腸菌、冬は断水でトイレに困る」という記載は、毎年あるいはそうでなくても頻回にそのような事態が発生していることを印象付けるもので、また、読む者をしては、そのように理解するのが普通といえる。そうすると、極めて古い過去に一度あったことを捉えて、いかにも頻回に大腸菌が出ているかのように記載することは、事実の誇張というよりその歪曲も甚だしいものといわなければならない。しかも、多数の生徒を預かる学園において、事が公共衛生に係わるものであるだけに、かかる表現が父兄はもとより同じ地下水を利用している近隣住民等に対し与えるショックや不安等の影響は極めて大きいものがあり、被控訴人としてもかかる影響の大きさを当然に認識しうべきものといえる。したがって、右記載(ことに大腸菌に関する記載)は、正当な根拠に基づかないもので、控訴人の信用を著しく棄損する不当なものというほかない。そして、この点に関し、学園生徒の父兄や、新入予定の生徒父兄に不安を与えたことは、前記認定のとおりである。

なお、(証拠略)によると、平成二年一一月一五日に、株式会社延岡衛研により、学園の西館、西館井戸、調理室、自動車科、野球場、体育館の水について検査が行われ、この結果、西館で採水した水から大腸菌群が、野球場から採水した水から一般細菌が検出され(なお、野球場の水道はもともと飲料用ではなく、学園としても飲用しないように注意していた。)、水質基準不適合との判定結果が出され、控訴人は、右検査結果を同月二八日に知り、同年一二月一日に再検査を依頼して実施したところ、今度は大腸菌は検出されなかったことが一応認められるところ、右大腸菌の検出については、西館の井戸水からは検出されていないことや、再検査において検出されなかったことなど、採水時に採水の方法等に問題があった可能性も考えられ、その原因は不明な点があり、少なくとも、被控訴人が、〈17〉の前記摘示をした昭和六三年四月当時に、大腸菌が検出されるような環境、衛生状態にあったことは認められず、被控訴人の右記載を正当化しうるものとはいえない。

(17) 項目〈18〉について

〈18〉は、控訴人が、職員でない者を長年職員として外部に公表していると述べるものであるが、(証拠略)によれば、調理科の非常勤講師として学校要覧等に十数年記載され続けている一名の医師が、実際には学園に勤務しておらず、授業又は講義をしたこともないに等しいことが一応認められるところ、同記載において「必要悪」と記載している点において穏当を欠くきらいがないではないが、とりたてて当該記載の内容が不当であるとはいえない。

(二)  以上の個別的検討を総合して、さらに全体的に評価、検討するに、前記各項目は、労働条件及び教育条件等控訴人の学校経営に係わる事項というべきところ、一般的に、労働条件(教育条件についても労働条件と密接に係わり労働条件と同視すべき場合も有り得るといえる。)については、控訴人と組合との団体交渉によって解決されるべきものであるが、これができないときに、地方労働委員会に申し立てたりすることはもとより適法なものであり、また、労働条件、教育条件に関して対外的に組合としての見解、判断を表明し、これに基づいて、所轄庁に対し、行政指導の申入れを行うこと自体は、何ら違法なものということはできない。

しかし、右組合の見解が、不実の事実に基づくなど、第三者や控訴人の名誉、信用を棄損する場合には、違法、不当の評価を受けることは当然であって、それが労働組合の活動であることを理由に正当化されるものではない。ことに、本件のような行政指導申入れの場合、私立学校法四条二号、四号により所轄庁である県知事は、学園及び控訴人に対し、同法五条等に定める一定の事項の認可権限や監督権限を有するほか、同法五九条、私立学校振興助成法に基づき、補助金の交付、減額、不支給の権限等を有している(弁論の全趣旨により控訴人も学園経営の経常費の相当部分を公費助成金に依存していることが一応認められる。)のであるから、組合が、たとえ組合の見解としてであっても、不実の事実を摘示することは、控訴人の名誉、対外的信用を損なうおそれがあることはもとより、所轄庁に対し、その行政指導のための適切な判断を誤らせ、控訴人に不当な不利益を及ぼすおそれがあるものとして、違法性の程度が強いものとなるといわなければならない。

そして、本件においては、前認定のとおり、行政指導申入れ書に摘示している事実は、ほとんどが組合として容易に事実調査、確認しうるものであるのに、これを怠り、風聞や組合の一方的判断、見解に基づいて控訴人を非難するものであり、〈1〉ないし〈4〉、〈12〉、〈14〉は、誇張的表現や軽率さなど不当な点を含むが、表現の問題あるいは見解の相違として、ある程度違法性の点において斟酌しうるものがあるといえるものの、〈5〉、〈7〉、〈11〉、〈13〉、〈17〉の項目は、著しく誇大に表現したり、あるいは、不当に誇張、歪曲した事実、さらには虚偽の事実を摘示するなど、控訴人の名誉、信用を著しく棄損する不当なものであって、実際にも、前認定のとおり、〈5〉の項目により、宮崎県の控訴人に対する不信を惹起し、聞き取り調査を受けるなどし、〈17〉の点により、父兄に対し学園の水道設備について不安感を抱かせ、また、学園の生徒募集にも少なからず混乱を招いたことが明らかで、違法性の程度も強いといわなければならない。

さらに加えて、前記のとおり、本件行政指導申入れは、学園の施設が充実し、組合において過去に求めていた要求が徐々に入れられ、昭和六一年、六二年には要求として特に上げられていなかったのに、常勤講師問題に関する闘争を有利に導くため、ことさら控訴人に対応するいとまを与えないでなしたという経緯や、また、組合は、本件行政指導申入れ書と同内容の文書を、学園生徒の父兄のほか、その他の労働団体等無関係な団体にまで配付し、学園の実情を知らない者をして、公的機関に申し入れをしたという一事から、記載された事実が真実と信じさせる効果を持たさせようとした意図が明らかであることなど、その意図、目的の不当性は高いものであって、これによってもたらされる控訴人の名誉、信用に対する棄損の程度も大きいものということができる。

(三)  以上によると、本件行政指導申入れによる同申入れ文書を、宮崎県、学園生徒の父兄等に配付した被控訴人の行為は、組合活動として正当なものということはできず、勤務規定三二条四号の禁止事項である「職務上知り得た秘密を漏らし、又は学校の不利益となるおそれのある事実を告げること」に違反し、勤務規定四九条四号、五号の懲戒事由に該当すると認められる。

2  生徒への文書配付について

(一)  控訴人は、前記生徒に対する本件生徒配付文書の配付が、勤務規定三一条二項に違反すると主張し、被控訴人は、右規定は、憲法二一条、同二八条、労働組合法の趣旨に違反し、公序良俗に反するもので無効である旨主張するので、まず、この点について検討する。

勤務規定三一条二項は、学園の施設内における集会、文書配付等につき、事前に理事長及び校長の承認を要する旨定められ、昭和五五年四月一日施行の旧勤務規定以来一貫して定められているものであるが、(証拠略)及び前認定の事実によると、右旧勤務規定は、それ以前、組合が極めて激しい組合運動を展開したことがあり、組合機関紙及びそれ以外の組合員間の連絡文書等(以下「組合文書」という。)を、学園の全職員を対象として無差別に配付していたため、控訴人としては、学園が心身未発達の生徒に対する教育の場であるという特殊環境を考慮して、これらの文書が生徒の目に触れないようにその配付等に何らかの規制を定める必要性から規定されるに至ったものであること、そして、右規定の施行を巡って組合と控訴人間で争いが生じ、宮崎地方労働委員会の仲介により、昭和五五年八月二三日、組合と控訴人との間に、右勤務規定の存在を前提として、昭和五五年和解協定書が合意されたこと、右和解協定書において、控訴人は、組合機関紙の配付については従前どおり配付することを認め、組合は、学園が教育の場であるという特殊な環境を考慮し、配付方法につき生徒の目に触れないような配慮をすることが合意されたことが一応認められる。

右によると、学園が、生育途次にある心身とも未発達な生徒を教育するという特殊な職場環境にあることから、組合機関紙及び組合文書の配付について一定の制約を受けるのは止むを得ないものといえること、右勤務規定は、事前の承認を要するというもので、全面的に文書配付を禁止するものではないこと、また、同勤務規定の趣旨は、組合による学園の全職員に対する組合文書の無差別配付を制限することに主眼があり、したがって、昭和五五年和解協定書において、控訴人は、組合活動を尊重して、組合機関紙については、これを全職員に配付することを認めている(被控訴人は、右和解協定において組合文書はその対象になっていないから、自由に配付しうる旨主張するが、組合の最重要な文書である機関紙が制約付きで特に合意の対象となり、その余の文書は何ら制約なしに全職員に無制限に配付できるとの見解は到底採用できない。)のであり、同勤務規定においても、組合文書を組合員間においてのみ配付(ただし、その配付方法は、右和解協定書の趣旨を考慮すると、生徒や組合員以外の職員の目に触れないような配慮を要するものといえる。)することまで制限している趣旨とは解されないことなど、これらの諸事情を考慮すると、同勤務規定は有効であって、被控訴人主張の憲法の規定等に違反し、公序良俗に反する無効のものとはいうことはできない。

(二)  そこで、本件生徒配付文書の配付が勤務規定三一条二項に該当するか否か及びその違法性の有無について検討するに、同規定は、学校の施設内における配付を制限するものであるところ、本件生徒配付文書は、前記認定のとおり、学園の施設外でなされたものである。しかしながら、(1)その配付場所及び態様は、生徒が必ず通過する学園の通用門前の道路で、しかも生徒を両側から挟み込むようにしてなされたものであること、右勤務規定及び昭和五五年和解協定書による合意は、いずれも生徒に対する影響を防ぐことが最も重要な点であったことが認められ、(2)さらに、本件生徒配付文書は、「真実をお知らせします」との標題のもとに、控訴人が濱口及び能丸の両常勤講師を採用した当時、「二年目から教諭」という約束があったこと、しかるに、控訴人はこれに反して両名の雇用を打ち切ったことを伝えるとともに、組合が両名の職場復帰に向けて行動することを宣言する内容であるところ、右約束があったとの点は、右能丸及び濱口の主張であって、控訴人はこれを否定し、既に訴訟が提起され右事実の有無が訴訟によって争われることになるのに、被控訴人は、右能丸らの主張のみが「真実」であり、控訴人がそれを不当に破ったとの印象を与えるもので、結果として反対運動を行う組合への支持を求める趣旨になっていることは否み難いこと、このような文書を登校途中に教師から手渡されれば、生徒が学園への不信、不安の気持ちを抱き、その心情に動揺を来すことは、容易に推測できること、組合としては、学園という教育施設の特性に鑑みて、成長途次にある生徒に対し無用の刺激を与え、その教育効果を阻害する可能性のある行為に出ることは厳に慎まなければならないものであり、組合活動としても行き過ぎとの誹りを免れないものということができる。

そうすると、右(1)の事実に照らし、右生徒に対する文書配付は、勤務規定三一条二項を潜脱するもので、実質的に同規定に違反し、勤務規定四九条四号所定の懲戒事由に該当するものというべきであり、少なくとも、(2)の事情に照らし、被控訴人の右行為は、勤務規定四九条二号あるいは五号所定の懲戒事由に該当するものというべきである。そして、右の点から、被控訴人の行為は違法であって、組合活動として正当なものということはできない。

3  本件リボン闘争について

(一)  次に、本件リボン闘争について検討すると、右行為は、前記生徒に対する文書配付と一連のものとして行われ、常勤講師の雇用止め反対闘争について、組合員の団結を誇示・鼓舞するとともに、組合員以外の教職員及び生徒に対し理解及び支援を求める目的、効果を持ったものと認められる。そして、それが勤務時間中に行われたことにより、組合員自身の職務に専念すべき義務に違反し、かつ、他の教職員の職務への集中を妨げるおそれがあったといえるのであり、学園の秩序規律の維持を阻害した可能性は否定しきれない。また、ホームルーム及び大掃除の際に生徒の眼にもリボンをさらしたことにより、生徒に学園への不信・不安を与え、その心情に動揺をもたらしたと推認し得るから、学園の教育業務を阻害した可能性も否定できず、この点は秩序規律の維持阻害の点よりも問題があるといえる。そして、昭和五五年和解協定書で学園内でのプレートの着用はしないとの合意にも違反するものである(プレートとリボンとで特に異なることはない。)。以上からすると、本件リボン闘争は、勤務規定三〇条二号に違反するものであり、かつ、組合活動としても違法であるといわざるを得ず、勤務規定四九条二号、四号及び五号所定の懲戒事由に該当するというべきである。

(二)  しかしながら、本件リボンの形状及び記載文言は無用な煽情的・刺激的効果を与えないようにかなり配慮されたものであると認められること、その着用時間は一時間半程度の短時間に過ぎず、しかも、その間に行われたのは職員朝礼、ホームルーム、大掃除であって、始業式開始前には外されていたのであるから、通常の授業のある日に相当時間リボン着用がなされた場合と比べると、職場の秩序規律及び生徒の心情に対する影響の度合いはかなり低かったといえることを考慮すると、本件リボン闘争の違法性の程度はあまり高くないものということができる。

4  本件抗議文書の配付について

(一)  本件抗議文書は、いずれもその体裁、内容から組合機関紙でないことは明らかで、組合は、これを学園の全職員に対して配付したものであるから、本件抗議文書は、昭和五五年和解協定書による合意の適用もなく、勤務規定三一条二項に違反し、勤務規定四九条四号所定の懲戒事由に該当するものということができる。

(二)  しかしながら、本件抗議文書(ママ)文書が作成、配付された背景には、学園関係者が右谷浩作成の陳述書に関し同人及びその勤務先に対し電話や面談により「虚偽」の記載の確認行為を重ねて行ったという事情があり、その確認の態様や「虚偽」とされる記載の内容に照らすと、訴訟の中途における相手方当事者側の証拠提出者に対する接触の仕方として適切さを欠いたものがあるといわざるを得ない。したがって、右谷及び組合において、学園関係者の動きが陳述書提出を理由に右谷に対し不当な圧迫を加え、同人の熊本中央女子高校における身分の安定を侵しかねないものであると考えたことは無理からぬものがあり、組合が、学園関係者の動きに対する抗議文を作成して、これを控訴人理事会に提出するとともに、一般教職員にも配付して抗議を実効あらしめようとしたことは、その目的において強く非難し難い面がある。そして、本件抗議文書の記載がいずれも、右谷の言葉をほぼそのまま伝え、それに基づく主張を述べたものであるといえることや、配付方法及び配付時間につき配慮がなされていたということも併せて考慮すると、本件抗議文書の配付は勤務規定三一条二項に抵触するものの、その違法性の程度は高くないものというべきである。

五  本件懲戒解雇処分の有効性について

以上のとおり、本件行政指導申入れに基づく同申入れ書の提出及び配付行為、本件生徒配付文書の配付行為、本件リボン闘争、本件抗議文書の配付行為は、いずれも違法であって、組合活動として正当なものということはできず、したがって、前示のとおり勤務規定所定の懲戒事由に該当するものというべきところ、これらを理由としてなされた本件懲戒解雇の有効性について検討するに、懲戒処分のうち解雇処分は、被懲戒者の地位を失わせるもっとも重大な処分であるから、懲戒権者において、右処分を選択するに当たっては、各行為の態様のみならず、その原因、動機、結果及び対外的に与えた影響のほか、被懲戒者の態度、身上、過去の処分歴、選択する処分が与える影響を総合的に考慮してなされるべきであり、また、当該行為と処分は、社会通念に照らして合理性を欠くものであってはならないと解される。

そこで、本件をみるに、前記各行為、ことに本件行政指導申入れ書は、内容の不当性から悪質であり、控訴人の名誉、対外的信用を棄損し、その与えた影響は極めて大きいものであるし、本件生徒配付文書の配付行為は、生徒を紛争に巻き込むもので、教師として著しく配慮に欠けた行為と評することができる。そして、被控訴人は、組合の委員長として右の各行為を主導したもので、右各行為は被控訴人の個人的指導性、指導力に負うところが大きく、また、例えば、事後的に本件行政指導申入れ書の誤りを指摘されてもこれを訂正するどころか、かえって反駁し、さらに関係各団体に配付するなど、反省の態度がないことも軽く見ることのできない点といえる。さらに、本件各行為に至る原因として、能丸、濱口ら常勤講師の問題があり、その当否は見解の分かれるところであり、したがって、組合がこれを取り上げ、その廃止を求めるため適法な社会運動を展開することは何ら当不当を問うべきことではなく、被控訴人及び組合が本件各行為をなすにいたった動機としては斟酌しうる点がないではないが、被控訴人及び組合は、右問題を有利に解決するための闘争手段として、多方面からの控訴人に対する社会的批判を醸成するため、ことさら、控訴人に対応するいとまを与えないまま本件行政指導申入れをなし、さらに、生徒への文書配付行為に及んだという事情も一応認められるのである。

そうすると、右の点だけで、被控訴人の責任は極めて重いものがあるということができ、これに、違法性の程度が弱いとはいえ本件リボン闘争、本件抗議文書配付行為を勘案すると、控訴人が、被控訴人を懲戒解雇処分に付したことは、その裁量を逸脱した無効なものということはできない。

被控訴人は、本件懲戒解雇は、控訴人の反組合的動機を本質的かつ不可欠の原因とするものであるから、不当労働行為として無効である旨主張するが、前記認定の事実に照らし、これを認めることができない。また、被控訴人は、本件懲戒解雇は、解雇権の濫用である旨主張するが、右説示のとおり、本件各行為の違法性に照らし、解雇権の濫用に当たるとは認められない。そして、これに反する被控訴人供述は措信できず、他に被控訴人の主張を認めるに足りる適確な証拠はない。

六  以上によると、被控訴人の本件仮処分申請は、その余の点を判断するまでもなく理由がなく、却下を免れない。

よって、これと異なる原判決を取り消し、被控訴人の本件仮処分申請を却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鐘尾彰文 裁判官 中路義彦 裁判官 郷俊介)

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